英語を浴びるだけ日記

英語で見たり聞いたりしたもの日記

イギリスの貧困

f:id:planariastraw:20220404154312j:plain昔から貧困の物語に魅せられている気がする。発端はもしかしたら子供の頃に見た「世界名作劇場」だったかもしれない。外国では大人に虐められながら子供が働いたり、教会で死んだり、貧乏のためにお母さんがどこか知らない遠い所に行ったりするのだ。恐ろしい事だ。その後は「おしん」かな。昔の話だけど日本だって油断は出来ない。長じて「パリ・ロンドン放浪記」とか「日本残酷物語」とか。

休日に何か作業をしながらDesert Island Discsの過去エピソードを何となく流していると、時々インパクトのあるエピソードに出くわすことがある。Dr. Sabrina Cohen-Hattonさんの話は印象的で何度か聞き返している。

この番組に出てくる人は名のある人ばかりで、実際この人はイギリスの消防の幹部なんだそうだ。しかし10代の頃の数年ホームレスだった過去があり、そこから消防士になり、博士号を取った。昔の事ではない。恐らく1990年代のごく普通のイギリスの地方都市の話。両親の事、路上でビッグイシューを売る彼女と目が合ったのに学校の先生が見なかったふりをして避けていった事、行政に助けを求めたら冷たくあしらわれた事、空腹のあまりホットドッグスタンドのごみ箱の前で誰かが食べかけを捨てるのを待っていた事、ユダヤ人差別にあった事、ホームレスの仲間以外声をかけてくれる大人が誰一人いなかった事。

「誰も自分を助けてくれなかったから、自分は人を助けようと思った。」と言う。そしてホームレスの自分を邪険に扱ってきた警察ではなく、消防を選んだと。Desert Island Discsとして選んだ曲はIdlesにClashにPistolsだ。かっこいい。そして消防の現場で発生する事故から仲間たちを救おうと、危機的な状況における人間の心理について大学で研究を重ね、博士号を取ってしまったのだ。かっこよすぎる。

日常があっという間に崩れてしまう怖さ。ホームレスから博士号を取って消防の幹部まで上り詰めるダイナミズム。

私が10代~30代を過ごしたのはちょっと有名な地域だった。中学で同じ部活だった人の母親は餓死して全国的な大問題となったし、クラスの1/3位は暴走族だった。学校同士の抗争や補導は日常茶飯事で、事業に失敗した両親が朝起きたらそろって首をつっていたとか、妊娠出産でしばらく学校休みますとか、親がいなくなって施設行きで転校とかそんな事がしょっちゅうだった。今思えば先生たちもその道のプロ*1が集まっていたし、生徒の側も世慣れていて、邪悪な人間はいなかった*2。自分は今のところまだ屋根のある所で眠れているが、親が居なくなったらどうなるか分からない。あの頃のみんなもなんとか生き残ってるだろうか、と時々懐かしく思い出す。

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*1:警察とはすっかり顔見知りで、不良のボス生徒を上手くいじり倒して笑いを取り、父母とも上手くやっていたのは、すごい手腕だったと思う。学校行事も他とは違って特殊なやり方だった。

*2:自分はたまたまそこに引っ越しただけの小太り黒ぶちメガネの地味な一般市民だったが、みんな仲良くやっていた。